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ネタ自体は結構しっかり出てたはずなのに文字打てなすぎてびっくりした

しゃっくりって間隔短いと結構苦しいんですよね だいぶ前に呼吸困難レベルの起こしたことがあって、あれはほんとしんどかった…








「出発なのか」

秩序の聖域にある屋敷の中、被る直前なのか兜を手に持っていた勇者へ、スコールは確認するように話しかけた。勇者はフリオニールとオニオンと組んでの探索へ向かい、スコールはジタンと屋敷に残る予定になっている。
見ての通りのことを口に出して尋ねたスコールに、内心密かに驚いてしまったオニオンとジタンが視線を遣る先で、振り向いた勇者の口から洩れたのは。

ひっく

「…ん?」

ぱちくりと瞬いた者三人、口元に手を遣り軽く眉根を寄せた者一人。

「ウォル?」
「これは…っく」

しゃっくりだ。ウォーリア・オブ・ライトがしゃっくりしてる。
しゃっくり自体は珍しいことでもないのに、勇者がそれをしているというだけで、先程のスコールよりも妙に驚かされてしまって、オニオンとジタンはつい勇者へ駆け寄ってしまう。二人に比べて勇者と長い時間を過ごしているだろうスコールも、二人と同様に驚いているらしい。勇者を覗き込むその目には、驚愕と共に心配の色が浮かんでいる。

「…先程から、止まらないのだ」

ふ、と息を吐く表情は辟易したもので、勇者といえどしゃっくりにはずいぶんと困っているらしい。
たかがしゃっくり、されどしゃっくり。一過性ではあるが、長続きすれば面倒そのもので、頻度が高ければ呼吸すら妨げる代物なのだ。
迷いなく秩序の戦士たちを導いてくれる、凛然たるリーダーが苦しむ姿は珍しかれども、見ていたいものでは決してない。

「朝飯の時はしてなかったよな」
「しゃっくりって何で起きるんだっけ?」
「横隔膜の振動…と聞いた気がする」

しゃっくりの原因を探るにも、医療方面には詳しくない三人から出てくるのは、スコールの曖昧な知識のみ。三人どころか四人寄っているが、文殊の知恵は発揮されそうにない。未だにしゃっくりで肩を跳ねさせている勇者からも、出てくることはなかった。
では解決法は、と考えれば、俗説レベルとはいえ三人にはいくつか思い付くものはあった。

「驚かせると止まるって言うぜ」

最初に出されたジタンの提案はよく言われているもので、オニオンやスコールも何度か耳にした覚えがあった。とはいえ、その効果のほどは分からないとしても、まずそれ以前に問題があるのだ。

「そもそもウォルを驚かせることが出来るの?」

むう、と眉を寄せて勇者を見上げるオニオンの疑問は、スコールも、そして発案したジタンにもすぐに思い当たった問題だった。この勇者様が驚いた顔など、ろくに目に出来たことがないのだ。それは固まった表情筋のせいでそう見えないだけなのではなく、滅多に動じない精神のせいで本当に驚いてくれていないのだと、三人どころか仲間全員が思っている。
驚かせること自体が無理だ、ということでジタンの提案は撤回された。

「水を飲むとか」
「息を止めるか…」

続いたオニオンとスコールの提案も、勇者がすでに試していたということで、解決策は打ち止めとなってしまった。時間が解決するものではあるが、未だしゃっくりで苦しげに喉を抑えている勇者を見ると、焦燥感ばかりが三人に募ってしまう。
どうしたものか、うんうんと考え込む三人に、勇者は申し訳なさそうに目を伏せた。

「っく…三人とも、すまないな」
「そんなの、リーダーが謝ることないって! オレ、ちょっとフリオニールに聞いてみるわ」
「僕も行ってくる。セシルたちがまだ出発してないかもしれないし」

謝罪に笑って返したジタンが出て行ったのに続き、オニオンも駆けて行けば、その場に残ったのは勇者とスコールの二人のみ。二人を見送ってから、スコールへと向き直った勇者は困ったような顔をしていて、スコールは小さく苦笑してみせた。
こちらはどうにかしてやりたい思いであれこれと考えをめぐらしていたのだから、勇者が負い目を感じることはないのに、生真面目な男は自分の非のように感じてしまうらしい。

ひっく

「…しぶといな」

苦笑を引っ込めてそう呟くと、手を喉を覆うように置かれたままの勇者の手に重ねた。思えば、しゃっくりの問題を発見したせいで、勇者たちの出発がかなり遅れてしまっているが、こんな気が散る状態で出るのは好ましくない。それを一番もどかしく思うのは、勇者自身だろう。
ケアルやポーションが効くとは思えないが、解決法も浮かばない。思案しながら勇者から手を放したところで、ふとスコールが視線を巡らせた先に、勇者が使ったらしい水筒があった。

(驚かせる、水を飲む、息を止める…)

しばし逡巡してから、不意に水筒を掴んでは器に水を注ぎ始めたスコールを、勇者は不思議そうに見遣る。水を溜めた器を手にしたスコールは、勇者に座るように言った。
どこかぞんざいに聞こえる言い方なのを気にしつつ、言われた通りにその場へ座って兜も隣に置くと、勇者の脚を跨ぐように乗ってきたスコールが、やおら水を口に含んだ。

「スコー…」

グローブに覆われた手によって勇者の顔が上向き、スコールの名前を呼ぶために開いた唇に、水で濡れた唇が重なる。
冷水が入りこんで、次に熱い舌が触れた。それらを自失しながら感じ取って、喉を通った水の冷たさで勇者が我に返った時には、もうスコールは顔を離してしまっていた。吐き出した息は、冷水を通した割に妙に熱い。

「スコール」

勇者の脚に跨ったまま、スコールは真っ赤に染まった顔を必死で背けている。小さく、しかしはっきりと改めて名前を呼んだのは、スコールの意図を推しあぐねているため。しばらくの沈黙を挟んでから、ようやくスコールは勇者へと視線だけを向けてきた。

「…しゃっくり、止まっただろ」
「え?」

ぼそりと、小さな声で絞り出すように言われて、勇者は自分の喉に手を遣ると、もう一度はっとしたように目を見開いた。あれほど苛んできたしゃっくりが、出てこない。
未だにどこか呆然としたような表情で見つめてくる勇者に、スコールは再び視線を逸らしてしまう。
驚かせて、水を飲ませて、呼吸を止める。この内のひとつで駄目なら、全部やってしまえばいい。そんな考えで実行してみたものの、いざやってみれば、当然ながら恥ずかしすぎた。結果としてあれほどしつこかったしゃっくりは止まってくれたが、それを喜ぶには、自分の突飛すぎる行動への後悔が今になって邪魔をするのだ。
耳まで赤くしながら、過ぎた羞恥で潤む目を隠そうと俯いているスコールを、勇者は喉から離した手で抱き寄せた。鎧を着ていることは頭になく、ただ溢れる熱のままに細い体を掻き抱く。

「痛、い、ウォル!」

文句も聞こえないふりか、抱き締める強さは身動ぎも許さないほどで、近すぎる勇者の吐息が熱いことに気付くと、改めてとんでもないことをしてしまったのだとスコールは思い知らされた。そして今の状況は非常にまずいことを、今更になって思い出す。
ジタンとオニオンは仲間たちに話を聞いて“来る”のだ。今すぐにでも戻ってくるかもしれない。

「放せ、って! ジタンとか、オニオンが来たら、どうするんだ!」

二人の、特にオニオンの名前は効果があったようで、一瞬の沈黙を過ぎてからようやく力を緩めた勇者から体を離すと、スコールは息を吐いた。少し不満そうな勇者には、自分で引き金を引いただけに悪いと思う部分もあるが、かといって勇者の気が済むまで抱き締め続けられても困る。近くで仲間の気配を感じた、それからでは遅いのだ。
頑固な勇者がスコールの要望を聞き入れたのは、そういった理由があったからこそで、逆に言えば、たとえば深夜のような仲間に見られる心配のない状況だったなら、勇者はスコールを放しはしなかっただろう。むしろそれ以上に求められていただろうことは、そういった方面に鈍いスコールが分かるはずもなかった。
二人して立ち上がったところで、勇者はふとスコールへと手を伸ばした。

「助かった、ありがとう」

感謝の言葉は、しゃっくりを止めてくれたことに対してだと分かるが、“だが、”と続いた言葉と未だ熱の残る頬に触れた手に、スコールは訝しげに勇者を見上げる。そこにあったのは、どこか底光りする熱を含んだ薄氷の双眸で。

「夜に」

低く囁くような一言が落ちてきて、額の傷に口付けられて、スコールは再び羞恥で俯く羽目になった。その一言に何が続くかくらいは、さすがに分かる。頷いてしまってもいいのは感謝の方だけだと理性は訴えるが、囁きにもそう返してしまいたいとも思ってしまう。
分かってしまった以上、無視出来るほどの余裕はない。いっそ分からなければよかったかもしれない。どう返せばいいのかと迷いに迷っていたスコールの思考は、ジタンが飛びこんできた音で結局真っ白になった。

探索組が出発して屋敷に残されたスコールは、勇者の一言とそれに対する認めたくもない期待に悶々とさせられた末に、他のしゃっくりの治療法へと思考を現実逃避させていた。それはそれで自分の行動が思い出されて、また悶々としてしまうスコールを、自分たちが情報収集に走っていた間の二人に何が起こったのか予想していたジタンは、それは面白そうに眺めていたのだとか。









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『夜に 続きを』

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