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三日も空けるなんて不覚だ!








ある日、勇者はスコールの頭に耳があるのを見付けた。

―――あれは、何だ?

暗褐色、よりはやや明るい髪と同じ色をした耳が、ぴょこんと着いているのだ。しかも下の方にも視線を遣れば、ジタンのものによく似て、耳と同じ色をしたしっぽがあった。耳もしっぽも、おそらく猫のものだとは思うのだが。
確か、眠る前には着いていなかった、はずだ。いや、自分がスコールを見間違えることなどありはしないのだから、昨日にはなかったに違いない、そう考える勇者は、もしもスコールの耳に入れば赤面させた上に照れ隠しの鉄拳を飛ばされるだろうことに気付いていないが、それはともかく。
とにかく、いくら瞬こうと手で目を擦ろうと、スコールに突然生えた猫耳と猫しっぽは、消えてはくれなかった。

「どうしたんだ?」
「フリオニール。君には…」

あれが見えるだろうか、と今でも生えっぱなしの耳としっぽを指して勇者は問うが、フリオニールは一回目を見開いて、そしてスコールへ視線を向けた。そこで先程の勇者のようにぱちぱちと瞬いてから、視線を戻した。

「…見えないけど…」

フリオニールの答えを受けて、ふむ、ともう一度じっとスコールを見つめる。
彼に見えないということは、とりあえず誰かがスコールに何かを仕掛けた、ということはないのだろう。それだけで一挙に安堵する勇者は、スコールに対してだけはずいぶんと心配性になってしまっていることに、やはり気付いていないのだが、それもともかくとしておいて。

―――しかし、まぁ、なんというか。

自分の幻覚か何かは知らないが、あれはあれでかわいらしいものだ、と勇者は無表情の奥でそんなお気楽というか少々ズレたというか、凛とした表情にはあまり似つかわしくないことを考える。スコールと勇者を見比べているフリオニールに知る由もないのが、幸なのか不幸なのか。
しかしなぜいきなりあんなものが見えたのだろう、と勇者はただ疑問に思う。薄氷の視線の先で、耳はぴんと立ってしっぽはゆらゆら揺れて、触れてみたいとか掴んでみたいとか、そんなことをすれば怒らせてしまいそうだ、なんてちょっと横道に逸れてみたりもして、解決する兆しは無い。
とりあえず、本人に訊くのが早いだろう。

「スコール」

なんとはなしに遠くを見ていただけだったらしいスコールが、呼びかけにぴくりと肩を動かすと、振り向いた。その前に、耳が動いてこちらへ向いて、揺れていただけのしっぽも一瞬止まって。
上目に見上げてくる視線を受け止めながら、髪に触れようとして、止めた。

「…ウォル?」

止めたのは、なぜか触れたら耳やしっぽをすり抜けてしまいそうな気がしたからであって、決して触れたくなかったわけではないのだ、と勇者は心の中で弁解する。それでも不自然に引っ込めてしまった手はスコールに見られてしまったようで、呼びかけは怪訝なのに見上げる双眸は、どこか、寂しげに見えた。
耳としっぽが、しゅんと垂れ下がる。
それを見て、勇者はかぶりを振った。いや、と呟いて。

「何でもないんだ、スコール」

すまなかった。
そう言って頬へ触れると、垂れていた耳としっぽがぴょんと立ち上がった。スコールはぱちりと瞬きをひとつ、そしてふと雰囲気を和らげて。

「…なんだそれ」

唇こそ弧を描きはしなかったが、細まった目は微笑みを浮かべている。ああ、嬉しいのだな。勇者はスコールと自身の感情に、そう判断した。
頬の手で前髪を退けてやると耳としっぽがくすぐったそうに震えて、そんな反応が途端に愛しく思えて。衝動に任せて唇を寄せれば、驚いたように瞠目されて、そして受け止めるようにスコールの瞼が閉じた。
次に瞼を開いた時、耳としっぽは無くなっていたが、もう勇者が惜しいと思うことはなかった。

そんなものが無くても、愛し人の感情くらい分かる。





…ふたりが去った後にて。

「……あー、またやらかしたな」

妙に幸せそうな顔で倒れているフリオニールに、ジタンは溜め息を吐くと、もうここにはいない二人の姿を浮かべて、もう一つ大きな溜め息を吐き出した。
無意識であり知りもしないのだろうが、ある意味、容赦がないふたりである。









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うーん、ついフリオとジタンを出してしまう…

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