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スコ視点に続いてなぜいきなりって、DdFF発売前にやっておきたかったお話だったのでした
ただ長編に置いてる話(月長夜)と繋がってるので、先にそちら読んで頂いた方が分かりやすい…とは思うのですがいかんせん無駄に長いので読まなくても大丈夫なようにしてみた、はず
ただ長編に置いてる話(月長夜)と繋がってるので、先にそちら読んで頂いた方が分かりやすい…とは思うのですがいかんせん無駄に長いので読まなくても大丈夫なようにしてみた、はず
長いような短いような道のりを経て、クリスタルを手に入れた。女神が現れることはなかったが、クリスタルの導きは確かで、従って進んだ先では仲間たちが一足先に会していた。クリスタルを手に入れていることは、すぐに分かった。
誰も欠けていない。集った者は、先の混沌軍との戦いで並んだ顔ぶれと、まったく同じだった。自分より先にクリスタルを手に入れていた彼も、いる。女神の加護が強く残る聖域を一度見回し、女神が現れる、あるいは混沌が忍び寄る様子が無いことを確認した。これは、時間が与えられたということなのだろうか。
「…皆、無事で良かった。今しばらくは、ここで休息を取ろう」
号令に反する者はなく、皆が頷いて屋敷へと入っていく中、一度だけ彼と目が合った。深い海色の瞳は、クリスタルを手に入れる前に再会した時よりも、少しだけ和らいで見えた。その中の感情は、彼がバッツとジタンに絡まれてしまったせいで、すべては読み取れなかったが。見取ることの出来た安堵に、僅かに心が浮ついた気がして、思わず内心で苦笑した。
再会は叶った。約束は、さて、“その時”はいつだろうか。急いて役目を見誤るわけにはいかない。
逸りそうな心を叱咤して、皆が去った聖域をもう一度だけ見回して、空を見上げた。曇り空には朱が混じっていて、夜が近いと知る。
あの夜にすべて伝えてしまえばよかったのか、今となっては分からない。けれど、ほとんど一方的に立ててしまった誓い(ノロイ)と約束が、今までの旅路では確かな力のひとつになっていたことは、偽りようもないことだった。そして、その想いがどんな言葉になるのかは、とうに分かっていたことだった。
住む者もいない屋敷は整備されているはずもないのに、ずいぶん前に目にした、小奇麗な状態のまま残っていたおかげで、これまでの野営に比べるとずっと快適な環境だった。それは皆同じだったようで、夕食を採った後は早々に寝台へ入り込んでいた。
加護の強い聖域とはいえ、混沌が入り込まない保証はない。見張りにしては軽装のまま、仲間たちが眠る屋敷を抜け出した。なにより、眠れなくて。仲間が、彼が、少しでも安心して眠りに就けるならばと思って、体が睡眠を欲していなかったということなら、どれほど良かっただろう。皆が思ってくれているほど、綺麗な人間ではないと自覚している今、もっと別の理由でしかないことも分かっていた。
再び会えてよかったと、言いたかった。言えなかったのは、機会を逃していただけではなく、どうしてか言葉が詰まってしまったからだった。高揚していたせいで、余計なことを言わないようにと、無意識に自制していたのかもしれない。詰まらせて募らせた結果が、その高揚が、こうして眠れない原因になっている。
これほど想うようになったのはいつからだろう、どうして想うようになったのだろう。バッツから渡された羽を手に彼が語ったのは、自分が仲間に向けたものとは違った形で存在する、仲間への想いだった。異なる魂の在り方に惹かれたから、失くし難いものだと思ったのか、羨ましかったのか。
ぴちゃ、と水面の跳ねる音がした。
「…スコール」
起きていたのか、とか、夜着のままでは寒くないのか、とか、言うべきことはあったはずなのに、小さく名前を口にすることしかできなかった。自分が振り返ったせいで彼が足を止めたように見えたからか、あるいは、薄闇の中立ちつくした彼が、存外に儚く見えてしまったからなのか。以前、彼が湖中へと融けていこうとしたのを思い出して、恐れを抱いたのかもしれない。
引き留めたくて、失いたくなくて、あの時は手を伸ばしたけれど、今はそうせずにいる。もし触れてしまったら、そのまま抱き潰してしまいそうで。拳を握り、一歩近付いて、まっすぐに見据えた先の海色が、じっとこちらを覗き込んでいた。
「私は、君を、」
途端に瞳が揺れて、言葉を飲み込んだ。
自分でも分かる硬い声だけが、水面に反射して落ちた。どくりと心臓が跳ねて、息苦しくなって、言葉が繋げない。痺れを切らそうとした拳で胸元を握りしめて、呼吸を繰り返す。
交わっていた視線が僅かにずれただけで、ひどく動揺した。まだ、まだ、“その時”ではなかったのだろうか。
ずっと前に迎えた月の長い夜、少しだけ口にした彼への想いは果たして引きもせず燻るばかりで、潰えるはずもなかった。彼の枷になるなら諦めるだなんて、よく言ったものだ。逃げようとしたなら捕まえるだろうし、諦めるくらいならはじめから殺していただろう、この感情を。未来を恐れていた彼は、一方的な誓いを信じてくれて、こうして再会の時に現れてくれた。分かってほしい、自分がそう言うならばと未来を信じてほしいと願って、もう一度言ってもいいかとまた願った。“その時”がきたら、次を、すべてを伝えたかった。
ほんとうは、まだわからない。
ともすれば壊してしまいそうなほど繊細な彼が、どうして自分を信じてくれたのだろう。彼の信頼に足るだけの価値が、自分にあるのだろうか。堅物だと揶揄されるほど不器用で、怖がらせてしまいそうなのに。今も合わない視線の先で、細い肩が泣きだしそうに震えているのに、何も言えずにいる。
どうして苦しいのか、どうして少し怖いのか。待ちわびているような、いつまでもこのままでいたいような。少しだけ胸が痛い、早く瞳が見たい、視線が欲しい、安心させて。
スコール、と声にならない声が、一度だけ零れ落ちた。
聞こえたはずはないのに、まるで名前に反応したように僅かに上げられた視線は、覚悟していたような怯えはなく、そしてまっすぐに射抜いてきた。
ようやく海色を取り戻せたことが嬉しくて、自然と笑みが零れる。白くすら思えた相貌が、仄かに赤く見えた。
今なら、言ってもいいだろうか。言いたい、伝えたい、心を象った言葉。
「―――愛している」
できたことは。
腕の中に飛び込んできた細い体を、すべての想いを込めて抱き締めることだけ。
抱きこんだ体はあの時と同じく、温かい。ただ今は、彼のすべてが愛しかった。
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